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雲井雅人サックス四重奏団 第2回 リサイタル―2003.6.27―


「第2回雲井雅人サックス四重奏団リサイタル」の録音を聴いて、米国の作曲家アン ドリュー・スティラー氏がメンバーに寄せた礼状。この演奏会で氏の「チェンバー・シ ンフォニー」を日本初演したことから。

Words cannot express how very pleased I was to hear your recorded
performance of my Chamber Symphony. Your ensemble's gorgeous tone and
impeccable technique are very impressive indeed, and I enjoyed the entire
concert as much or more than many a studio recording in my collection.

I found your performance of the last movement in particular to be quite
spectacularly exciting--and faster than I would have dared ask anyone to
play it!

I would feel honored to write another piece for you, should that prove
possible. Your repeated hints in that direction are highly tantalizing, and
I confess I've been thinking in advance about possible themes and formal
patterns--something I probably shouldn't be doing yet...

However things may turn out, I would like to thank you and the other members
of the quartet for the magnificent service you've done for my music, and to
wish you the very best of prosperity in your professional endeavors.

Yours very truly,

Andrew Stiller



二つ以上の音が同時に鳴るとき、そこにハーモニーが生まれる。こんな単純なことに、なぜこれほど心躍るのだろう。その面白さを追求していくうち、「もっと美しく」「もっと神秘的な響きを」と欲が出てくる。ある時、チューニング・メーターでいくら正確に音を合わせても、美しくハモらないことがあるのを発見する。そして「純正調」の存在を知り、その不可思議な美しさに目覚めてしまう。いったんその美しさを 知ると、もうそこから逃れことはできない。僕たち「雲井雅人サックス四重奏団」 は、今そんな場所にいるのかもしれない。今回のプログラムのさまざまな作品を通して、ハーモニーすることの不思議さを表現 できたらと願っている。(雲井雅人)


雲井雅人サックス四重奏団リサイタル

2003.6.27(金)
19:00開演

東京オペラシティリサイタルホール

全席自由 4500円

お問い合わせ・チケット予約 エアリエル
tel.03-5465-2145

インターネットからご予約いただくこともできます。
http://www2.gol.com/users/ariel



プログラム

マラン・マレ/arr.秋透:スペインのフォリア
Marin MARAIS/arr.T.Aki : LES FOLIES D'ESPAGNE
アンドリュー・スティラー:チェンバー・シンフォニ
ー Andrew STILLER : CHAMBER SYMPHONY
1. アレグロ
2.「安息の地」〜荘重かつ儀式的に
3. 荒っぽいメヌエット
4. プレスト

◇◇◇◇◇◇


クロード・ドビュッシー/arr.中村均一:ベルガマスク組曲
Claude DEBUSSY/arr.K. Nakamura : SUITE BERGAMASQUE
1. 前奏曲
2. メヌエット
3. 月の光
4. パスピエ

アンリ・プスール:禁断の園へのまなざし
Henri POUSSEUR : VUE SUR LES JARDINS INTERDITS

イダ・ゴトコフスキー:サクソフォーン四重奏曲
Ida GOTKOVSKY : QUATUOR DE SAXOPHONES
1. 神秘的に
2. 遅く - おだやかなテンポで
3. 旋律線 - 簡素に
4. 俗歌 - 飾りのない魂で
5. 終章 - 燃えるような速さで



■「folia」には、「狂気」とか「愚か」などという意味がある。音楽としての「フォリア」の起源は古く、もともと15世紀頃にスペイン、ポルトガルあたりで流行した、かなり騒がしい(それこそ狂気じみた)踊りであったようだが、現在では落ち着いたリ ズムに性格を変えている。中国や朝鮮半島では、人名に「愚」という字を使用することがある(「愚公」とか「大愚」のように)。この漢字に含まれるふところの深いニュアンスを好ましく思う 感性があるのだろう。この「ラ・フォリア」の主題にも、何かそういった得も言われぬ感じがある。この主題は、減4度の音程におさまるほど狭い。しかしそこには、な つかさや漠然とした不安を感じさせる何かがあるのだ。様々な楽器のための「ヴェニスの謝肉祭」の変奏曲や、バッハ、ベートーヴェン、ブラームスらの(時としてうんざりするほどマニアックかつ長大な)鍵盤楽器のための数多くの変奏曲を例に引くまでもなく、西洋人の変奏好きは我々日本人の理解を超えるところにある(と私には思われる)。バロック時代のフランス人マラン・マレも、この主題の「狂気」に触発されたごとく、ここでその変奏好きを全面的に開陳している。 主題のあとに27の変奏が続く。

■現代アメリカの人アンドリュー・スティラーは、臆することなく「シンフォニー」とか「ソナタ形式」とかの拡大解釈や牽強付会をおこなっている。「私はハイドンをモデルにしている」と作曲家は述べているが、それを聞いたらハイドンも驚くに違いない。両端楽章では、広範囲に「回文(上から呼んでも下から読んでも同じ文章)」の技法を展開している。第1楽章、第1主題の執拗な反復。第2主題は、なんと四分音( 半音の半分)高く現れる。第2楽章「安息の地」-この楽曲のコアとなる楽章であり、悲傷感の全面的開陳である。100年ほど前にイディッシュ語(ユダヤ人のドイツ語)で書かれた、過酷な労働に対するプロテスト・ソングの一節が、この楽章の頭に添えられている。

愛、それはヒメツルニチソウの咲くところ、

そこでは私をさがさないでおくれ。

機械のまえに生命がしおれていくところ、

そここそが私の安息の地なのだから。

第3楽章は「毒」を含んだメヌエットであり、メヌエットという形式とその背景を揶揄していると思われる。プログラム後半の「ベルガマスク組曲」のメヌエットとはえ らく違う態度であると言える。第4楽章プレスト-回文の饗宴、熱狂と混沌のロンド・フィナーレ。セントヘレナ山の大噴火に遭遇した若き地質学者が、退避することなくその現場から通信を送り続け、ついには行方不明となった事件にいたく触発された旨、作曲家は述べている。地質学者の最後の交信は「Vancouver, Vancouver, this is it !!!」であった。なお、本日の演奏が日本初演となる。

■メヌエット、パスピエといった楽章の名付け方にも現れているように、ドビュッシー には古い時代に対する憧憬があった。「ベルガマスク組曲」を演奏するとき、我々の 心が「印象派」というくくりを離れて、バロックもしくはそれ以前の音楽を指向して いるように感じられることがある。近代の音楽の中には見失いがちな、とても贅沢な ものに触れているような気分にさせられるのだ。残念ながら、近代以降に発達した我々 の楽器サクソフォーンには、このような贅沢なレパートリーはごく少ない。ピアノの ための原曲を愛する人にどう聞こえるか不安な面はあるが、演奏家としてはこの作品 を演奏する喜びは大きい。

■「禁断の園へのまなざし」というタイトルは何を意味するのだろう。ここでの「禁 断の園」とは何かを考えるのは楽しい。それはどうやら、曲の中に引用されている、 17世紀ドイツの音楽家ザムエル・シャイトの合唱曲「心から我が魂は喜びに満ち」を 指し示すらしい。なにゆえそれが「禁断の園」なのか? もしシャイトの曲が「楽園 =エデンの園」の隠喩であるとすれば、「禁断の木の実」とはこの場合何なのか?( ときおり現れる「協和音」は、実に甘い味がする!)それを食べたのは誰か? 「まな ざし」は誰がどの場所から注いでいるのか? などと妄想は尽きない。この作品が、 現代音楽の強力な推進者であったイタリアの作曲家ブルーノ・マデルナ(1920-1972)の 死を悼んで書かれた作品であることを考えあわせると、様々に想像はふくらむ。

■現代フランスの女流作曲家イダ・ゴトコフスキーは、その出世作である「ブリラン ス〜アルト・サクソフォーンとピアノのための」以来、数多くのサックス用の作品を ものしている。以来何十年間も一貫してその作曲スタイルを変えない。他の作曲家な ら避けて通るかもしれぬストレートな感情表現を愚直なほど純粋に貫き通し、一聴し て分かるゴトコフスキー節へと昇華させている。 この「サクソフォーン四重奏曲」はその集大成であって、作曲家は恬として臆すると ころなく、その通俗に堕する一歩手前のメランコリックな激情を炸裂させている。こ こまで来たら、演奏する方もそれに身を委ねるしかない。 楽章の構成は異様である。遅い楽章が4つ続いたのち、激越なプレスティッシモの楽 章が最後に現れてこの曲を締めくくる。
(雲井記)

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