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雲井雅人の「小言ばっかり」

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2003/11/24(月)  アルト・サクソフォーンとマリンバのためのソング・ブック
デヴィッド・マズランカ作曲「アルト・サクソフォーンとマリンバのためのソング・ブック」を、2003年12月25日 第23回サクソフォーンフェスティバルにおいて、雲井が演奏いたします。
以下は、作曲家自身による解説です。(訳:笹井 純)

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「ソング・ブック」はローレンス音楽大学のSteven JordheimとDane Richesonの委嘱によって1998年の夏に書かれました。

バッハのコラールは私の音楽研究の中心的課題となっています。毎日それらの何曲かを演奏、あるいは歌うことで、頭を切り替え、作曲の時間に入っていくのが私のやり方です。鍵盤で全パートを弾きながら、ソプラノ、アルト、テナー、バスの各声部を次々と歌うのです。これを書いている現在のところ、曲集を9回目に通しているところです。ひとつひとつの声部の関連性、つまり如何にして、コラールから採られた旋律から、美しい他の旋律が紡ぎ出され、さらに全声部が合わさり和声の進行が生まれるか、といったことに、通すたびにより深い感銘をいだきます。私はこれらの曲が書かれた過程に魅せられていて、作曲するうえで強い影響を受けています。

「ソング・ブック」に出てくるコラールの旋律は、典礼上の意味とは無関係に選ばれています。歌の題名に喚起された情感に従い、元の旋律を発展させる形で作曲が行われています。私にとって引用という手法には、二つの意味があります。ひとつには、新しい作品を書いている時に、すでに存在する旋律が、頭や手に浮かんできた場合、その旋律にはもっと語るべき何かがある、あるいは、それが新しい文脈で違った姿を得るであろう、ということです。つぎに、引用することで、古い旋律の「懐に入る」ことによって、なにか全く別の新しいものを発見できるという意味があります。民族音楽やジャズの音楽家にとって、これはごく普通の手法です。

「ソング・ブック」の各曲は比較的短いものです。それぞれの曲には特定の語るべき内容があり、表現すべき特定の雰囲気と方向性があって、そしてそれらが表現されたところで曲が閉じられています。私はこれらひとつひとつを、叙情的な小景としてとらえています。

1. "Song for Davy"(「デイヴィーに捧ぐ歌」)はコラール、"Das alte Jahr vergangen ist" (「古き年は過ぎ去りぬ)、に基づいています。これは若き日の私自身への歌であり、私個人の変動期に書かれたものです。とても古い記憶にある和音を用いていて、物悲しく忘れ難い雰囲気を持っています。

2. "Lost"(「迷い」)はコラール、"Herr, Ich habe misgehandelt"によるものです。題名の大意は、「主よ、私は間違いを犯しました」というもので、そうした感覚から、迷い、救いを求める思いが生じています。

3. "Hymn Tune with Four Variations"(「賛美歌と四つの変奏」)は、この曲集中で、賛美歌の旋律を少しも変えることなくそのまま用いた、唯一のものです。旋律 は"Werde Munter, mein Gemute"(目覚めよ我が心)から採られていて、変奏ごとに速度を増し、最後は渾沌とした無秩序に陥ります。

4. "Serious Music-In Memoriam Arthur Cohn"(「シリアス・ミュージック-アーサー・コーンの想い出に」)はこの曲集の中で最も長く謹厳な曲です。アーサー・コーンは長年、出版社、カール・フィッシャー社のシリアス・ミュージック(純音楽)部門の部長を努めた人で、生涯にわたり、同時代の作曲家と現代音楽の、断固とした擁護者でした。私のカール・フィッシャー社との関係は、アーサーを通じて1974年に始まり、やがて彼は私にとって良き友人かつ助言者となりました。1998年の彼の死は、早世とは言えないにせよ、私に大きな悲しみをもたらしました。「シリアス・ミュージック」部門という命名は「クラシック音楽」というくらいの意味なのでしょうが、私にはとても面白く感じられます。そこで私はアーサーのために、とても、シリアス=まじめ(Serious)、な音楽を書き、彼が、このちょっとしたジョークを楽しんでくれればと思う訳です。

5. "Summer Song"(「サマー・ソング」)は甘美な曲ということで、それ以上の説明は必要ないでしょう。

6. "Song for Alison"(「アリソンに捧ぐ歌」)は、長年にわたって私に強い影響を与えてきた、妻に捧げる曲です。彼女は音楽家ではないのですが、優しさと堅実さと愛情で、私の想像の飛翔の後、帰るべき心休まる場所を提供してくれるのです。

7. "Evening Song"(「夕べの歌」)は、私のお気に入りの曲、ブラームスの作品116の間奏曲を思い起こさせるものです。「夕べの歌」は他の曲と同様、はっきりとロマン派的な音楽です。この曲は極めて静かで諦念に満ちていますが、その一方、どうしても伝えたい情熱的な想いを、曲の流れの中に有しています。



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