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雲井雅人の「小言ばっかり」

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2004/05/23(日)  曲目変更について
やむを得ぬ理由により、7月7日オペラシティにおける雲井雅人サックス四重奏団第3回定期演奏会のプログラムを変更させていただきます。

アンドリュー・スティラー「Two Fixed Forms Unfixed」に代えまして、
デヴィッド・ケックレー「Stepping Out」(日本初演)を演奏いたします。

その他の曲目に変更はありません。
どうかご了承くださいますようお願いいたします。


2004/05/16(日)  離陸
「G線上のアリア」、「ヘンデルのラルゴ」、「アルビノーニのアダージョ」、「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「スカルラッティのすみれ」、「浜辺の歌」、「グノーのアヴェ・マリア」、「ラフマニノフのヴォカリーズ」。ラジオやレコード、CDから流れてくる美しい旋律に魅せられて、自分もそれを演奏してみたいと願うのは、ちょっとでも楽器をいじったことのある人なら、当然持つ欲求でしょう。
僕もそうでした。若い時から、「グノーのアヴェ・マリア」が特に好きで、友だちの伴奏でよく吹いていました。ところが、なぜか自分で吹くとレコードのような感動がちっともない。「おかしいな、こんなはずではないのに。もっといい曲のはずなのに」とうすうす感じつつ吹いていた気がします。

今から考えると信じられないようなことなのですが、そのころ僕は、“自分の音が悪いということに気付いていなかった”ようなのです。まことにもって愚かでした。
極端に言えば、「自分はそこそこの音をしている。だから名旋律を吹けば名演奏になるだろう」と思っていたようなのです。この病気はそうとう根が深かったらしく、留学から帰って数回のリサイタルを経たのちも症状に気付くことなく、治癒するのに長い時間がかかりました。演奏会のアンコールに、貧相な音で「浜辺の歌」や「ヘンデルのラルゴ」をやって、恬として恥じることがなかったのでした。本当はこういう曲の方がコワイのに。

良い音の秘訣はブレス(呼吸)にある、ということに気付いたのはかなり後になってからでした。ブレスの重要性を頭で分かってはいても、それを実感するのは難しいことです。
僕の場合は、「自分の音には大して魅力がない」ということに気付き、嫌悪感すら持ちはじめていたことが伏線でした。そして、あるとき合唱指揮者の関屋晋氏が女声コーラスを指導されている場面をテレビで見たことで、大切な何かが分かったのです。関屋氏は、メンバーに「みぞおちを指先で軽く押さえて咳払いをしてごらん」というアドバイスを与えていました。それが、僕のブレスのシステムを入れ替えるきっかけになった瞬間でした。

大学などでレッスンをしていて、ある日生徒が良い音を出し始めるときがあります。そんなとき僕は、「この人は離陸しはじめた」と感じます。音がごく自然な感じで楽器から離れて、飛ぶ感じがするのです。逆に、響かない音は、離陸できず胴体を地面にこすっているような感じがします。
飛びはじめてからの音が、真にその人固有の音であり、その人にしか出せない本当の音です。音楽の楽しみは、そうなってからの方がより深いのです。生徒たちには、自分の音をぜひ追及していって欲しいものです。


2004/05/06(木)  「盗む」
《相談》
◇私は長年サックスを吹いていますが、音程がどうしても悪いのです。どうしたら良いでしょうか。

                  **********************************

《お答え》
◇僕も音程が悪い時期が、プロになっても長い間続いていました。
そこから曲がりなりにも抜け出ることができたのは、いくつかのきっかけがあったからです。
それらを列挙してみたいと思います。何かご参考になることがあれば幸いです。

●ダニエル・デファイエのレコード(ガロワ=モンブランの「練習曲」が入っているLP)を聴いて、特にその中音域の美しさに、以前から魅せられていました。「真ん中のド#」のみならず、サイドキーを用いて「真ん中のレやミ」を吹いても音が開いてしまわず、美しい響きを保ったままなのです。その点、当時のその他ほとんどの奏者は、サイドキーを用いるとすぐに、つぶれたようなイヤな音になっていました。なぜデファイエだけは美しく鳴らせるのか、それを不思議に思っていました。

●ノースウエスタンに留学して、ヘムケのリサイタルを聴いたとき、彼はヴァンサン・ダンディの「コラール・ヴァリエ」を1曲目に演奏しました。その出だしの音が、サイドキーで取ったピアニッシモの「真ん中のミ」でした。それがしびれるほど美しかった! どうしてもその音を自分自身で出したかった。僕のデビュー・リサイタルおよび僕のデビューCDのプログラムには、ダンディを入れました。僕にとって大切な曲です。

●サックス協会の催しでソプラニーノ・サックスをどうしても吹かなくてはいけなくなったとき、自分の音程の悪さにつくづく頭に来てしまいました。やけくそで、一番都合の悪い「真ん中のド#」を基準にして、その上の音程を作ってみました。非常に不安定で、息が出過ぎないように支えるのがとても疲れる吹き方でしたが、何とかなりそうなことに気付きました。どんなに疲れても、音質や音程が良ければそれでいい。肉体をある程度犠牲にして(疲労させて)実現できることなら、そこを鍛えれば何とかなると思います。現に声楽家や優れた管楽器奏者はそうしています。

●トレバー・ワイ フルート教本第1巻「音づくり」の中の、「真ん中のド#とレ」をめぐる響きや音程の作り方に、大きな影響を受けました。「目からウロコ」の何ともクレバーなやり方です。

●「純正調」や「差音」というものの存在を知り、さまざまに試みるうち、音程というものは想像以上に柔軟でなければいけないことに気付かされました。チューナー的な合わせ方以外の世界を知り、目が開かれました。

●以前の僕の弟子にとても感心な人がいて、こんなことを言っていました。
「先生のマウスピースの位置は、ほかの人に比べるとずいぶん深く差し込んである。この位置でどうして音程が合うのかと考えた。真似してその位置でいろいろやってみているうちに、ある時『これかな』という吹き方が見つかった」。僕はこれを聞いてとても嬉しかった記憶があります。よく言われる、「盗む」ってこういうことだなと思います。教師としては、言葉で伝えにくいところは、生徒にどんどん盗んで欲しいと願っているものなのです。彼は卒業後故郷に戻り、すばらしい教え方で次々と優秀な生徒を音楽大学に送り込んでいます。今もたくさんの生徒を抱えて、がっぽりレッスン料を稼ぎ、リッチな家を建て高級車を乗り回しています。「盗まれた」側の僕より、かなりいい暮らしをしていることは確かなようです。


2004/05/04(火)  「徒党」
ひとりで楽器を練習するというのは、往々にしてつまらなく、ときには辛いことでさえあります。これが、アンサンブルの練習のときは、あっという間に時間が過ぎてしまうほど楽しいのはどういう訳でしょう
私たちのカルテットは、結成以来、毎週決まった曜日に練習をしています(本番が近いときはこの限りにあらず)。何年たっても、私はこの時間が待ち遠しいのです。4人で美しく音を合わせることは、何物にも代え難い大きな喜びです。そのためなら、ひとりの辛い練習にも耐えられます。

アンサンブルってなぜこんなに楽しいのでしょう。それはもしかして「徒党を組む」ことの楽しさなのかななどと、最近よく思うことがあります。
大辞林によれば「不穏なことを起こそうとして集まること。また,集まった仲間」を「徒党」というそうです。
また、英語で「徒党を組む」ことを band together と言ったりするのも、楽しい偶然です。

アンサンブルを「徒党を組む」ことにたとえるなんて、まるで愚連隊みたいで物騒でいけませんが、仲間が集まって演奏する楽しさというのは、この徒党を組む心理に近いものがあるんじゃないでしょうか。
もちろん私たちは不穏なことを仕出かしてやろうなどと考えてはいません。しかしだからと言って、当たり障りのない演奏をしようなんていう考えも、金輪際持っていません。本番では、舞台上から観客席に向かって自分たちの感じたことを思い切って表現したいと願っています。そうして音を発するとき、志を同じくする仲間とともに事を行なえば、勇気百倍です!

アンサンブルは音による丁々発止の会話です。いつまでも平行線をたどる会話は苦痛ですが、触発し合い盛り上がっていく会話は喜びです。気の合う仲間、尊敬できるユニークな音楽家たちとかわす音の会話ほど楽しいものはありません。自分たち演奏家が楽しんでいる音楽を、会場のお客さまにも共に楽しんでいただきたいというのが、演奏者の願いです。

6月には、北海道と富山でコンサートを開きます。そのとき我々、「徒党」を組んで何ごとかをなす所存であります。


2004/05/01(土)  弟子たちの新人演奏会
音大を今年卒業した私の弟子たちが、新人演奏会に出演します。
興味深い曲もありますので、お時間ありましたらぜひご来場ください。

リチャード・ロドニー・ベネットの「スタン・ゲッツのための協奏曲」は、題名のとおりジャズ・テナーサックス奏者スタン・ゲッツの委嘱により作曲されました。クラシックの協奏曲の形式をとりながら、中間部にはかなり急進的なコード進行によるアドリブのセクションがあります。私個人的には、20世紀に書かれたサクソフォーン協奏曲の中では最高のものであると感じています。

ポール・ボノーの「2つのワルツ形式の奇想曲」の2曲目は、よく知られている無伴奏の作品に、作曲者自身がピアノ伴奏を付けたものです。新鮮な発見があります。1曲目は書き下ろしです。

ポール・ボノーの「ジャズのエスプリによる協奏風小品」は、Leducのカタログには必ず載っていながら、実演に接することが滅多にない作品です。フランス人特有のジャズの楽しみ方が表れていて、とても楽しく充実した作品です。

■ヤマハ管楽器新人演奏会 第8回木管楽器部門
浜離宮朝日ホール
入場料:1500円
5月7日(金)18:00開演
尚美学園大学:上運天淳一/R.R.Bennett:Concerto for Stan Getz

■第1回日本サクソフォーン協会主催「新人演奏会」
川崎市高津市民会館ノクティ・ホール(JR南武線「武蔵溝ノ口」・東急田園都市線「溝の口」)
入場無料
5月11日(火)18:30開演
尚美学園大学:上運天淳一/R.R.Bennett:Concerto for Stan Getz

5月18日(火)18:30開演
国立音楽大学:寺尾明美/P.Bonneau:Piece Concertante dans L'esprit Jazz
愛知県立芸術大学:高野由佳/P.Bonneau:Deux Caprice en Forme de valse

日本サクソフォーン協会催し物ご案内:http://homepage2.nifty.com/jsajsa/info.htm


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