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雲井雅人の「小言ばっかり」

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2005/05/28(土)  スタジオ行ってきた
このあいだ、スタジオで劇伴音楽のレコーディングの仕事をしてきた。
なんでも、三越劇場というところで使われるのだそうな。
作曲の栗山和樹氏は、2001年のNHK大河ドラマ「北条時宗」のテーマ曲(前奏でのモンゴル歌手のすごい声が強く印象に残る)を担当した。
素晴らしいメロディーを書く方です。

曲は全部アルトのソロで、3曲あった。
 a. 「愛のテーマ」っぽい、とても美しく熱い旋律。3分ぐらい。
 b. 幻想的なカデンツ。2分ぐらい。
 c. バリッとファンキーなフレーズ。フラジオギンギン。1分ぐらい。

がーっと集中して、さほどテイクを重ねることもなくOKとなった(スタジオは、終わるといつも虚脱状態となる。そんな自分を慰めるために、「のだめカンタービレ」6〜12巻を一挙に購入して、帰り道々読み耽る)。
なんかすごく面白い曲だったので、ついパート譜を持って帰っちゃいました(ホントはイケナイのかもしれない。多分イケナイ)。

この楽譜を大学に持っていって、次のような要領で学生に演奏させてみた。
これがほぼ、スタジオでの実際の流れです。
 1. 現場で楽譜を受け取る。
 2. 2分ぐらい要所を譜読み。
 3. テストとして、全体を試しに通してみる。
 4. 曲想のチェック。
 5. 本番・テイク1として、本気で吹く。
 6. 気になるところがあれば、録り直す。
 7. ギャラもらって帰る(振り込みのこともあり)。

この結果、僕としては興味深いことが分かった。
何人か、とても上手にaの「愛のテーマ」を吹く人がいた。
彼らは、面白いことに、ブレーマンやフェルリングといった旋律的な練習曲を吹くときよりも、ずっと上手だったのだ。
いつもそのように練習曲も吹くようにすれば、もっと早く上手くなれるのになーと思った。
旋律に共感できるかどうかという問題はあるのだろうが、音楽学生なんだから、どんな旋律でも一番良い姿に再現するように努めるべきなのだ。

bの「カデンツ」については、ほとんどの人が初見能力の不足によって、ボロボロの演奏になってしまった。
また、自由度の高いカデンツの中で、どう自分の表現をするかという点もまことに心許なかった。
曲想のチェックの段階で与えられるアドバイスに、あまり対応できない点も問題だった。

cの「ファンキーなフレーズ」にいたっては、誰も吹くことができなかった。
フラジオが頻発するノリノリのフレーズというものを、過去にかろうじて聴いたことはあっても、吹く経験をしたことがないのだから仕方がない。
フラジオそのものが出ないなどは言うに及ばず。
とは言え、スタジオは行ってみるまでどんな曲が来るのか分からないので、いざとなったら対応できなくてはいけないのだ(僕もギリギリですが)。

学生の中には、「楽譜は事前にFAXかなんかで送られてくるんじゃないんですか?」と思っている人もいるみたいだが、そのようなことは「あ・り・ま・せ・ん」(断言!)。

また、中音ド#が低いとか、中音レや高音ド#が上ずるとか、低音のスタートがかすれてミスるとか、そういったことは許されないのですよ。

学生にとって今回の疑似的なスタジオごっこが、はたして自分の出す音を「プロダクツ(製品)」として世間に流通させることができるのかどうか、そこを考えるきっかけになったとしたら嬉しい。


2005/05/21(土)  マウスピースよ
高校生のころ、マルセル・ミュールのレコードを聴いて衝撃を受け、サクソフォニストを志した。
現在この職業に自分があるのは、端的に言ってしまえば、それがきっかけだった。

ミュールのような音を出したいと、長年思ってきた。
ミュール以外の人間にはミュールのような音は出せないのだと自分に言い聞かせつつも、近年ますますその思いは強くなり、奏法や道具についてさまざまに試みていた。
あの音の秘密はどうやら、楽器や奏法ではなく(もちろんそれだって大切に決まっているが)、主にマウスピースにあるらしいことが分かってきた。
ここのところ、年代や型の違うたくさんのマウスピースや、さまざまのタイプのリードにうずもれるようにして、順列組み合わせで吹いていた。
試しては失望し、かすかな希望を抱いては裏切られることの繰り返しで、結局あきらめかけていた。
「今の自分の音だってそんなに悪くはないさ。でも・・・」

最後の望みをかけて、マウスピース作りの名人に調整をお願いした(考えてみれば、もっと早く行けば良かったのだ)。
これが当たったのだ!
信じられないことに、ぼくはミュールの音のするマウスピースをついに手に入れた。
名人、ありがとうございます!

今は夢中で吹いている。
何を吹いても楽しくて仕方がない。
ちょっとしたアルペッジョや、クレストン、イベール、プロヴァンスなどの曲を吹いている音が、まるで自分のものではないようだ。
レコードから聴こえていたあの音が、自分の楽器から響いている。
それを聴いている人たちの顔も思わずほころぶ。

うぬぼれ、錯覚、誇大妄想かもしれない。
時代錯誤的な音かもしれない(油断するとヴィブラートは大きめにかかってしまうし、ダークな音色は出にくい)。
でも、今しばらくはこの気分に浸っていたい。
どうもなんだか、初心者のような気持ちだ。


2005/05/14(土)  西澤健一という作曲家
西澤健一という若い作曲家がいます。
この人が、とてもいい曲を書く。
アルト・サックスのためのソナタを、試験などで学生によくやらせるのですが、レッスンの時も本番も心にグッと来るものを感じます。
普段迷いながら西洋音楽と格闘している学生が、この作品を演奏するときには、霧が晴れたように自分の心情を吐露することができるようになるのが、いつも印象的です。

下記のようにサックスのための作品も数点あって、彼のサイトで一部の楽譜およびCDの購入や音源の試聴ができます。
Sonate pour Saxophone alto et Piano
Semplice per Sassofono contlalto e Marimba
Variation pour Saxophone alto, Violoncelle et Cymbalum
Sonate pour Saxophone soprano et Piano
Vierzehn Etuden und Passacaglia

CD「西澤健一作品展」の演奏は、サックス 波多江史朗、ピアノ 西澤健一。
http://www.kenichinishizawa.net/menu.htm

また、雲カルの9月29日のリサイタルでは、四重奏のための委嘱作品を演奏する予定です。

6月11日には、ホルン奏者の藤田乙比古氏が主宰する「ブラスアンサンブル・ブロウ」のコンサートが、東京文化会館小ホールで開催されます。
ここでも西澤作品の初演がプログラムされています。
http://members.jcom.home.ne.jp/ottorino1/blow/


2005/05/10(火)  雲井関連CD
現在発売中の雲井関連のCDの、インターネット上での入手先です。
入手しにくいとの声があり、一例として紹介させていただきます。


■雲井雅人サックス四重奏団「マウンテン・ロード」
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=118437
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=648885

■「雲井雅人、あふれる歌へのオマージュ」
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=1509924
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=835459

■上松美香「TESORITO」(雲井が1曲参加しています)
http://www.hmv.co.jp/product/detail.asp?sku=847991
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=613740

■「管楽アンサンブル名曲集」(東京サクソフォーン・ソロイスツのメンバーとして参加しています)
  ☆クラリネット・木管・サクソフォーン・アンサンブル
  ☆サクソフォーン&フルート・アンサンブル II
  ☆サクソフォーン&フルート・アンサンブル I
http://www.victor-f-c.com/product/itemList.php?gno=5&mgno=14&sgno=70
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=458543
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=165248
http://www.towerrecords.co.jp/sitemap/CSfCardMain.jsp?GOODS_NO=458544

■コレジオサックス四重奏団「オズの魔法使い」
http://www15.ocn.ne.jp/〜collegio/


2005/05/08(日)  続き
オケのリハというのは例外なくどこでもそうだが、最初の練習から合わせはほぼ出来上がっている。
20年前、初めてオケに行きはじめた頃、その練習回数の少ないことに驚いたものだ。
定期でも、練習2回ゲネプロ本番ということがある。
練習が4回もあると、「今回はえらく丁寧だな」と感じたりする。
有名なコンチェルトなどの場合、練習1回ゲネプロ本番はザラ。
リハの時間の多くは、解釈をどう徹底するかということに費やされる。

「なにわ」は《オーケストラル》なウィンズなので、その点は一緒だった。
ただ違うのは、メンバーの「合議制」に近い雰囲気であること。
リードする人はいるにはいるが、ここでは演奏の解釈は「醸成」されていくというのが相応しい。

なにわ《オーケストラル》ウィンズの練習は、淀川工業高校及び隣接する守口市民会館で行われた。
お手伝いしてくれた淀高の生徒さんたちと、いろんな話ができたのは楽しかった。
所ジョージのTV番組で見た雰囲気とだいぶ違って(あれはおっかない雰囲気がかなり誇張されていたのかも)、みんな普通の高校生だった。

話の内容は、「音づくりについて」、「タコ焼き及びお好み焼きについて」など。
彼らの主張は、「タコ焼きにはタコ以外にチーズや餅を入れることもある」、また「お好み焼きというのは、何を入れて焼いてもいいからお好み焼きという」というものだった。
「大阪ではどの家庭にもタコ焼き器がある」というのは本当の話だった。

そのあと丸谷先生と飲みに行って、「イカ焼き」というものを初めて食べたが、これはかなりウマかった。
大阪はエエとこでした。


2005/05/06(金)  なにわ《オーケストラル》ウインズ演奏会終了
なにわ《オーケストラル》ウインズ、演奏会終わりました。
終わってしまいました。

今までに経験したことのない種類の仕事でした。
いや、仕事じゃないですね、これは。
メンバーのだれも、これを仕事とは思っていないはずです。

すごいメンツから出てくる、本当にすごい音。
3日間で十数時間に及ぶ、まったく妥協のないリハーサル(しかも、誰も文句言わない。あの猛者たちがですよ!)。
ザ・シンフォニーホールという最高の会場。
超満員の客席。拍手。

なにわ《オーケストラル》ウインズのメンバーの一員となれたことは、僕にとって大きな誇りです。
言葉ではうまく言い表せませんが、この演奏会の余韻は、僕の中で長く続くだろうと思います。


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